これぞ最強主人公!『火の国、風の国物語』

師走トオル火の国、風の国物語―戦竜在野』富士見ファンタジア文庫

武の名門、ファノヴァール家に生まれたアレスは、12歳の頃に巻き込まれた事件の折、謎の精霊・パンドラと契約を結ぶ。それから5年後、ベールセール王国に大規模な反乱が起こり、世は戦乱の時代を迎える。17歳にして王国最強の騎士となったアレスもまた、戦いへと身を投じていくことになる。もって生まれた才に日々の鍛錬、精霊の守護を得たその力は、まさに一騎当千

ちょっと笑ってしまうぐらいの最強ぶり。手加減のため普段は左手で剣を扱い、相手が何十人いようともものともせず叩き伏せる。決め台詞は「たった〜〜人で――いいのかと聞いている!」。
随所随所でアレスの人間離れした強さがアピールされ、もうベッタベタな主人公最強ラノベなのだけど、その直球ぶりがめったやたらと楽しい。普段は弱腰なのに、悪を見つけると猛然と突っ込んでいくという性格も好感度高し。
最近、良くも悪くもヒネリが効いたラノベばかり読んでいたので、この明快さは新鮮だった。「電撃疲れ」を吹き飛ばす痛快な作品。
これは、ぜひとも最新刊まで読んでみよう。

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ファン・ダルタ再登場『タザリア王国物語5』

スズキヒサシ『タザリア王国物語5 山獄の獅子王電撃文庫
4巻で大活躍したブザンソンとは、わりとアッサリ別れファン・ダルタがいるナフタバンナの国へ。
大喜びでファンに抱きつくジグリットは、子犬っぽくってかわいかったですな。忠犬ファン・ダルタがしっぽを振り回してはしゃぎまわる、という描写を予想していたのでちょっと意表をつかれた。犬キャラはジグリットのほうだったか! また、新入りの従者ケルビムに嫉妬するファン・ダルタも見所のひとつでしょう。
ストーリーの流れは、あいかわらずドコを目指しているのかよくわからない。とりあえずナフタバンナをぶっ潰すことにしたみたいだけど、どうも説明不足に感じてしまう。ナフタバンナの王様=ワルモノみたいな描写は確かにあったけど、理由としては薄すぎじゃないかね。
ファン・ダルタ大盛りなぶん、リネア様成分は控えめ。サドっ子こそこの作品最大の魅力なのでやや残念。

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リネア様の変態性にしびれる『タザリア王国物語4』

スズキヒサシ『タザリア王国物語4 獣面の暗殺者』電撃文庫
3巻ラストの「驚きの展開! 次巻を待て!!」みたいな露骨なヒキでどうにも熱意を削がれてしまい、後回しになっていた。
次の展開へ向けてのつなぎの巻というところなのだろうか? 戦記モノに戻るのか、それとも冒険ファンタジー色を強めていくのかよくわからなくなってきた。あと、新キャラの戦える商人なブザンソンも位置づけというか、どういう人物として描かれているのかあいまいな印象。「金の亡者」なのか、「金の亡者の仮面を被ったいい人」なのか、「金の亡者の仮面を被ったいい人を装った金の亡者」なのか、はたまた「ただのいい人」なのか。実際どういう人物なのかはともかく、どういう風に見せたいのかはハッキリしてほしい。これでは、突然裏切っても、逆にいきなり忠臣になっても驚けない。
戦記モノを期待していたせいか、どこをどう楽しませたいのか把握できないまま読み終わってしまった。
ただ、リネア様は相変わらずステキ。とくに特注の骨製アクセサリーにはしびれた。ジグには捨てるところがないとばかりにリサイクル精神を発揮する姿は、さながらカリスマシェフ。
殺意の波動に目覚めた幼馴染ことラシーヌも、リネア様を見習ってもっとはっちゃけるといいな。ジグリットに出会えばアッサリ味方にもどりそうでもあるけど。

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2008年下半期ラノサイ杯

前回は「まあ他の誰かが投票するでしょ?」とか日和ってたら、お気に入りの作品が思ったより伸びず後悔することになった。うーん、『荻浦嬢瑠璃は敗北しない』とか『ダブルブリッド10』とかに票をいれたかったな。
とういうわけで、「2008年下半期ライトノベルサイト杯」に投票します。

■新規作品部門
ブラック・ラグーン シェイターネ・バーディ

ブラック・ラグーン シェイターネ・バーディ (ガガガ文庫)

ブラック・ラグーン シェイターネ・バーディ (ガガガ文庫)

【08下期ラノベ投票/新規/9784094510799】
・AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~
AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~ (ガガガ文庫)

AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~ (ガガガ文庫)

【08下期ラノベ投票/新規/9784094510805】
GENESISシリーズ 境界線上のホライゾン I <上>【08下期ラノベ投票/新規/9784048672184】
迷宮街クロニクル (1) 生還まで何マイル?
迷宮街クロニクル1 生還まで何マイル? (GA文庫)

迷宮街クロニクル1 生還まで何マイル? (GA文庫)


【08下期ラノベ投票/新規/9784797350623】
・回帰祭
回帰祭 (ハヤカワ文庫JA)

回帰祭 (ハヤカワ文庫JA)

【08下期ラノベ投票/新規/9784150309404】

■既存作品部門
とらドラ8!

とらドラ!〈8〉 (電撃文庫)

とらドラ!〈8〉 (電撃文庫)

【08下期ラノベ投票/既存/9784048671705】
・シフト III -世界はクリアを待っている-【08下期ラノベ投票/既存/9784048671743】
輪環の魔導師4 ハイヤードの竜使い
輪環の魔導師〈4〉ハイヤードの竜使い (電撃文庫)

輪環の魔導師〈4〉ハイヤードの竜使い (電撃文庫)

【08下期ラノベ投票/既存/9784048672689】
バカとテストと召喚獣5
バカとテストと召喚獣5 (ファミ通文庫)

バカとテストと召喚獣5 (ファミ通文庫)

【08下期ラノベ投票/既存/9784757745186】
人類は衰退しました (4)
人類は衰退しました 4 (ガガガ文庫)

人類は衰退しました 4 (ガガガ文庫)

【08下期ラノベ投票/既存/9784094511048】

おばけ屋敷から銀河の果てへ『夏休みは、銀河! 上・下』

岩本隆雄『夏休みは、銀河! 上・下』朝日ノベルズ

夏休みは、銀河! 上 (朝日ノベルズ)

夏休みは、銀河! 上 (朝日ノベルズ)

夏休みは、銀河! 下 (朝日ノベルズ)

夏休みは、銀河! 下 (朝日ノベルズ)

かつてソノラマ文庫で『星虫』『イーシャの舟』などを発表していた岩本隆雄の新作。前作からかぞえて、約6年ぶりか。今はなきソノラマ文庫の香りを感じさせるという意味でも、懐かしさを感じる。
SFのようなおとぎ話のような、どちらでもないような独特の感覚は健在で、『ズッコケ三人組』ライクに素朴なお話が、いつのまにか銀河をまたにかける大冒険へと発展していく。今回は、主人公たちが小学生なので、より童話っぽい読み心地になっていた。
岩本隆雄の未来やら宇宙やらは、とてもポジティブでやさしい。現実的に考えるとあまりに楽観的に過ぎるとも思うのだけど、もうどうしょうもなく魅力的。続刊も期待できる終わり方だったので、またいつかこの続きを読ませて欲しい。いや、うん、旧シリーズの続きもね!

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空戦とラブロマンス『とある飛空士への追憶』

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

犬村小六とある飛空士への追憶ガガガ文庫

ええ、いまさらです。各サイト・ブログのランキングなどを見ていたらたまらなく読みたくなり、手にとってみた。なんとなく「食わず嫌い」的な感情があったんですよね。
ほぼシャルルとファナの2人しか出てこないお話で筋書きも単純なのだけど、「小粒」というよりは「珠玉」という感じ。余計な部分を削り落として、丹念に磨き上げた銀細工のような一作だった。2人の感情の動きや作品世界の身分制度、それに飛行機と空中戦が、読みやすくわかりやすく丹念に書き込まれている。
ラノベには異常な描写や過剰な刺激感を売りにしたものが多い。で、まあ、僕はそういったヤツラが大好きなわけだけど、たまにはこういうのもいいな。派手なところはないけど、丁寧にしっかり組み立てられた安心できる本だった。

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猛烈な展開に圧倒される『ハルカ 炎天の邪馬台国』

ハルカ 炎天の邪馬台国

ハルカ 炎天の邪馬台国

桝田省治『ハルカ 炎天の邪馬台国エンターブレイン
『ハルカ 天空の邪馬台国』の事件で平和になったはずの古代日本に、再び暗雲がたちこめる。現代の日本で再会した張政とハルカは、またも争いの中心へと飛び込んでいくことになる。現代から古代へ、そしてまた現代へとアクセル全開で突っ走るノンストップ冒険ファンタジー

うーん、激しい。『天空』もかなりスピーディだったけど、今回はもう暴走気味といってもいいぐらいに展開が早く、何度か置いてきぼりになりそうになった。強引な展開が目立つし、読み直しても意味が分からないシーンもチラホラ。
あと、後書きに出てきたハルカの出生の秘密もよくわからなかった。うーん、気になる。
それでも、最初から最後まで「意外な展開」の連発で押し通す豪腕と、カラッと底抜けに明るいキャラクターたちは魅力的。全体を貫く枡田節みたいなのが肌に合えば、読む価値はあるかと。
前半は古代の日本で、後半は主に現代の日本で神との戦いが繰り広げられる。『天空』で出てきたキャラも次々と登場し、伏線もすごい勢いで回収されていく。『天空』はちょっとすっきりしない終わり方だったし、やはり2冊合わせてひとつの作品なのだろう。

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