少年とウナギと都市型宇宙船『回帰祭』

小林めぐみ『回帰祭』ハヤカワ文庫

回帰祭 (ハヤカワ文庫JA)

回帰祭 (ハヤカワ文庫JA)

汚染された地球から飛び立った恒星間宇宙船ダナルーは、とある惑星に不時着する。そして300年後、人々は壊れかけた宇宙船のなかで、奇妙な社会を形成していた。システムの異常により、男女比が男9:女1と偏ってしまう。このバランスをとるために16歳になった少年たちの9割は、地球へ向かう船に乗りこむことになるのだった。

これはちょっと、かなり珍しいものを読んでしまった。
宇宙船を改造した都市は広いとはいってもたかが知れていて息が詰まる。でも、テラフォーミングがうまくていいないせいで、都市の外に住むことはできない。まず、この圧迫感と不安感を、少年たちの心理と重ね合わせた設定に惹かれた。
男は、16歳になってカップルの相手が見つからなかったら、都市を出て地球に回帰しなければならない。逆に女は一生のあいだ都市を出ることができない。主人公たちは、まさに16歳になったばかりで、退屈で閉塞感しかない都市に残るのも嫌だし、かといってどんな場所なのかもわからない地球に行くのも怖いという宙ぶらりんな状況で、壊れかけた反重力装置を使って飛び降りごっこをしたり、ほとんど見たことがない「女」というものについて妄想したりしているわけだ。
ここまでなら、ありがちながらよくできた閉鎖世界モノSFなのだけど、読みすすめていくとあまり見たことがないような妙なイメージが現れてきて、SFとして読んだらいいのか、それともラノベなのか文学なのかよく分からなくなってくる。偉そうにしゃべりまくるウナギが出てきて、そのままメインキャラクターになったときはどうしようかと思った。
いや、もっと変な小説はいくらでもあるだろうけど、SFのお約束を守りつつラノベらしいキャラクターで変な話を作って見せたのがすごい。正直に言うと、無茶せずに普通のSFをやってくれたほうが面白かったんじゃないか? なんて気もしないではないけれど、この個性は貴重。
独特のエロさを感じる少年キャラの描きかたもいい。BLっぽいというのはちょっと違うな、うーん、どちらかといえば萩尾望都の『マージナル』とか竹宮恵子の『アンドロメダストーリーズ』とかそのへんの古い少女漫画のイマジネーションに近いかも。
この作者、どうやら富士見ファンタジアその他のラノベレーベルから相当な量の作品が出ているようなので、いつか読んでみたい。……けど、積み本と新刊だけでも手一杯になりがちなのでだいぶ後になりそうな気もする。