Tarte『カタハネ』感想※ややネタバレ

アインはトニーノに演じてほしかった。作中では三枚目な役どころだけど、本当のトニーノはきっとアインのような強さと優しさを秘めているから…などと、意味不明なうわごとを言い出したらカタハネ中毒です。そっとしておきましょう。そもそも「本当のトニーノ」ってなんだよ。
というわけで、致命的なネタバレは避けたつもりですが、そこそこネタバレです。というよりも、やってないと分けがわからないんじゃないかと。

■ストーリー
大逆人アインは、実は「いい人」だった。小説家志望のワカバは、そんな思い付きから演劇を作ろうと思い立つ。そんな折り、幼なじみの少年セロは、その家族ともいえる人形(シスター)ココのメンテナンスのため旅をすることになる。ワカバとその弟のライトも旅行に同行することになり…。国中をまわりながら劇を作り上げようとする少年と少女、男と女、そして人形たちの物語。「シロハネ」
白の国最後の王女クリスティナ、後世には大逆人として伝わるアイン、赤の国の至宝とも呼ばれる人形エファ、青の国からやってきた策士ヴァレリー。白青赤、3国の権勢をめぐる陰謀に翻弄された人々の生と死を描く悲しいお話。「クロハネ」
プレイヤーは、「シロハネ」→「クロハネ」→「シロハネ」と3章仕立ての物語を読み進めていくことになる。そして、物語を3周したとき、すべての謎が明かされ、しっとりとした余韻を残しつつ大円団を迎える。

■アンドロイドは王女の夢見るか?
実際に夢を見るのはワカバとライトなのだけど、そのへんはスルーしてください。
陰謀に翻弄され、破滅することが分かっていながら愛を深めていくクリスティナとエファ。「クロハネ」の悲恋と二重写しになるように惹かれあっていくアンジェリナとベル。この百合の二重奏は、『カタハネ』のメインディッシュのひとつ。エロシーンも、お互いへの深い愛情を感じさせる美しいものでした。エロさより、もの哀しさを感じてしまうほどに。
年老いることのない人形と恋愛をすることができるのか? 人形石の力で記憶や意思までも変わってしまう人形にとってアイデンティティとか何か? なんていう重いテーマも出てきますが、それほど深刻にならずうまく処理しています。これは、キャラクターのもつ力でしょう。ベルがエファの魂を、そしてクリスティナのそれを受け入れるのは当たり前のこと。だってベルだから。
クリスティナとエファの恋は、お互いに依存し合い甘い毒の中で奈落へと落ち込んでいくものだった。そして時はながれて「シロハネ」へ。人形とヒトとの自然な関係、対等な恋はアンジェリナとベルによって成し遂げられる。

■ボーイ・ミーツ・ガール
ワカバとセロの恋の物語は、なかなか進展しない。まるでマージャンに入った福本伸行マンガのごとく。王宮にノゾキに行くシーン、キスされておいてそのまま何ごともなかったようにスルーって何よ! とか思っていると、いつのまにか、その「じれったさ」が癖になっているのがセロマジック。実際、思いが通じ合ってエロシーンになだれ込んだときには、残念さすら感じました。
明確な主人公を定めない群像劇というスタイルをとっているため、プレイヤーには、セロの想いも、ワカバの想いも見えている。これにより、そのすれ違いや煮え切らなさがより強調される。視点がコロコロ変わっていくため、感情移入は難しいけれど、その代わりに父親というか、仲のよい友人というか、そんな近しい第三者的な立場から、2人の恋を見守っている、そんな気分に浸らせてくれる。

■英雄と悪漢
そして、最後のシナリオとなるココルートでは、張り巡らされた伏線を駆け抜けるように、たたみ掛けるように回収していく。お祈りのポーズをとるココの両手のように、過去と現在が繋がっていく。そこに浮かび上がってくるのは、大逆人の汚名のもと、嫌悪され続けてきたひとりの男の後ろ姿。
ココからデュアへ、デュアからエファへと託された人形石は、ベルを通じてココのもとに戻ってくる。それはなんの解決にもなっていないただのパス回しに過ぎないはず。「歴史は変えられない」というセロの台詞のとおり、すべてはとっくの昔に終わってしまったことなのだから。
だけど、劇中劇の最後で『カタハネ』というタイトルに込められた意味を知ると、最後にはクリスティナもエファも、アインも幸せだった、悲しむべきことなんかなにもない、そんなふうに思ってしまった。
「シロハネ」と「クロハネ」が繋がっていくのと並走するように、「シロハネ」の各登場人物たちもそれぞれの思いを伝え、結びつき合っていく。そして、未来へと歩き出していく。


セーブデータによると、プレイ開始からコンプリートまで約4週間かかっています。短くはないとはいえ、そう長いゲームではなく、総プレイ時間は30時間に満たないでしょう。にもかかわらず、長い期間がかかってしまったのは、途中で他のゲームに浮気したりしていた証拠。寝食を忘れて熱中したとはいえません。正直、1周目では何度か挫折しかけました。
しかし、「ココルート」を終えると、すぐに再プレイに入ってしまいました。そのくらい、エンディングの余韻が気持ちよかった。
もし、途中で止めている方がいたら、最後までプレイしてみることをオススメします。