HERMIT『世界でいちばんNGな恋』感想 ややネタバレ

恋人と別れ、会社からはリストラされ、となにをやっても上手くいかないダメなお人よし「芳村理」。スナックでやさしく励ましてくれた女性に恋をして、結婚を申し込むために教えられた住所に向かうも、すでに彼女は男と駆け落ちしていた。理は、母親に逃げられた少女、大家ちゃんこと「陽坂美都子」が管理人を務めるオンボロ長屋「テラスハウス陽の坂」に転がり込むことになる。不幸体質のダメ男と健気で頑張り屋さんな娘の、親子のような、恋人のような奇妙な共同生活が始まる。物語は、長屋の住民や隣人たちを巻き込んで、さらにややこしく、ほほえましく、そしてエロくなっていく。

(未プレイの方が見ても平気なように、むしろプレイを楽しむ助けになるように願いつつ書きました。しかし、全体の構成・構造に触れているため、気になる方もいるかと思います。近々にプレイする予定の方は読まないようににしてください)


■逆めぞん一刻
オンボロ長屋、美しい(かわいい)管理人(大家)さん、奇妙な住民、そしてヒロインに恋する金持ちとくれば、これはもう「めぞん一刻」でしょう。しかし、そこはひとひねり、主人公と管理人さん(大家ちゃん)の立場を入れ替えてあります。浪人生の五代裕作に対して、離婚暦ありのリストラさん。未亡人の音無響子に対して、ばっちり子供な大家ちゃん。オマケとして、主人公のライバルな御曹司・二階堂望は女性となり、澤嶋姫緒に大変身。
『NG恋』は1話ごとにOPムービーが入るテレビドラマ仕立ての構成がとられています。この「テレビドラマ仕立て」という部分なのですが、舞台のほとんどが「テラスハウス陽の坂」に限定されること、それにギャグの入れ方のテンポのよさから、日本の番組よりもアメリカのコメディ、それもシットコムシチュエーション・コメディ)を連想しました。「フルハウス」や「フレンズ」、といえばピンと来る方も多いのではないでしょうか? 登場人物がヘマをしでかすとどこからともなく「観客の笑い声」が入ってくるアレです。
こちらはとくに確たる根拠はないのですが、背景などの関係から舞台が限定されるエロゲーの特性を上手く利用し、シットコムの楽しさをうまく演出していると感じました。

■掟破りの一本道シナリオ
このゲームは、美都子ルートを本筋として、まず夏夜、ついで姫緒、最後に麻実ルートへと枝分かれしていきます。極端に言うと、美都子ルートとその他のルートの関係は、トゥルーエンドとバッドエンドのそれに近い。このため、ヒロイン間の格付け感がかなり大きく、最初に枝分かれする夏夜など、かなりかませ犬的な扱いになっていると感じました。正直、夏夜が一番好みだったので、ここはちょっと引きました…。
と、もちろん何の意味もなくこのような、いまどき流行らない構成になっているわけではなく、そこには丸戸お得意の仕掛けが隠されているわけです。各ヒロインのエンドを見た上で、真ルートたる美都子に進むという構造は「ダメな恋」というテーマを押し出すために念入りに計算されているのです。

■嫉妬と罪悪感、誘惑と背徳感
曲がりなりにもエロゲプレイヤーならば、いまさら1X歳の女の子とコトに及ぶことに躊躇する人などいないはず。何しろ二桁。もう、エロゲ的には十分に適齢期です。バキ風に言って「ルールのない淫行がしたいから二次元に来たのだ!」なんて方もいらっしゃることでしょう。僕も、わりと、そうです。
それが! 丸戸マジックにはまると、ものすごくいけないことのように思えてくるのです。何度も何度も「父娘なんだ、娘として愛してるんだ」と自分に言い聞かせるように繰り返す理。美都子ちゃんはまだ子供なのよ! 大人としてやってはいけない! と言い聞かせてくるヒロインたち。これがだんだんとボディブローのように効いてきます。3人のルートをクリアするときには、美都子=自分の娘という刷り込みが出来上がっているはずです。
しかし、それと同時に! 夏夜の肉体に溺れ、姫緒さんのツンデレっぷりに酔い、ザ・焼けぼっくいこと麻実とボーボー燃え、そのたびに美都子ちゃんに嫉妬されて嫉妬されて嫉妬されるという展開を通ることで、その愛情の深さ、情の強さを感じ取り、「どうしても美都子ちゃんを幸せにしなければ! これまで何度も裏切ってきたけど、今度は恋人として! 倫理なんてあるものか!」という逆方向の激情に突き動かされているはず。
この、一途な娘を裏切り続けてきた罪悪感と娘を犯す背徳感の板ばさみはすごい。とくに美都子初Hは、かなり追い詰められます。燃えます。(萌えどころじゃないです)

■仕込まれたシナリオとその副作用
ここまであまり触れていませんが、美都子以外の各ヒロインも、とても魅力的に描かれています。頭ユルユルな軽い女性に見えて、実は超一途な夏夜。悪役になりきれないというかもうバリバリに善人で、おマヌケな姫緒。おカタい女教師を装いつつも「よりを戻したくてたまらんですタイ!」という本音がモレまくってる麻実。バッドエンドなんて書いてしまいましたが、各ヒロインのルートも十分な長さがあり、普通の恋愛モノとして見ても十分以上のデキです。エロシーンも多め!
しかしながら、前述のように美都子以外は、真ルートを盛り上げるための当て馬という構造になっているのもまた確かだと思われます。繰り返しになりますが、ここについてはやはり残念。
あと、これはもう言いがかりともいえないレベルながら、主人公が長身のお人よしという設定は、背が低くて嫌なやつな僕としては感情移入が難しいことこの上なかったです。

古いマンガやテレビ番組を取っ掛かりに、すっと物語に引き込む演出と、ゲーム全体に罠を張り巡らせ、最終ルートで爆発させる意欲的なゲームデザイン。本気で作られた極上のエンターテイメントであることは保障できます。ただし、その実験が全てプラスに出ているとはいえないでしょう。