古橋秀之『冬の巨人』徳間デュアル文庫

冬の巨人 (徳間デュアル文庫)

冬の巨人 (徳間デュアル文庫)

永遠に続く冬、果てなく続く雪原をただひとり歩み続ける巨人〈ミール〉。人々は、巨人の背中に街を築き、その体熱を用いて産業を発達させていた。巨人の背以外には、人の住まう土地は無く、人々にとって、〈ミール〉こそが世界そのものであった。外市民の少年・オーリャは、神学院教授・ディエーニンとともに、巨人の外を探索し、“世界の外”を目撃することになる。


1986年2月19日、旧ソビエト連邦によって宇宙ステーション・ミールの基本モジュールが打ち上げられた。時代は米ソ冷戦。ミールの成功は、ソビエト宇宙開発の勝利の象徴であった。以後、この巨人は宇宙空間をひとり、回り続けることになる。1991年、ソ連が崩壊するとミールの持つ意味もまた変わってくる。1995年にはスペースシャトルとのドッキングが行われ、平和と国際協力の象徴となった。しかし、この頃にはすでに、ミールの体は老いに蝕まれていた。老朽化した船体は、しだいに崩壊を始める。1997年、貨物輸送宇宙船・プログレスがミールの太陽電池接触、同年には火災も発生し、その劣化に拍車をかける。2000年には、丸一日地球との音信が途絶し、自動制御も不可能な状態となった。2001年、ミールは廃棄計画に従って落下させられる。大部分は大気圏で燃え尽き、残った一部は南太平洋に没した。

以上は、この物語とはまったく関係の無い現実世界のミールのお話。『冬の巨人』は、スチームパンク風の異世界SFファンタジーで、宇宙開発物語などではありません。作者がどの程度意図していたのかは不明ながら(まったくないってことはないはず! 登場人物の名前はみんなロシア風だし)、このもうひとつのミールと重ね合わせて読みました。また、宇宙ステーションつながりということで、『猫の地球儀』へのアンサーだったのかも、なんてことも考えさせられました。
ページを開いて、「この世」に「ミール」というルビが振られているのを見たときの衝撃は、長く忘れられないものとなりそう。