田中ロミオ『人類は衰退しました 2』ガガガ文庫

人類は衰退しました 2 (ガガガ文庫)

人類は衰退しました 2 (ガガガ文庫)

妖精さんの作った計量スプーンをいじっていると、頭に刺さってしまった! あわてて引き抜くと、スプーンには血や頭の内容物ではなく「薄力粉」が入っていた。お菓子作りの材料を確保するために、頭から大量の薄力粉を取り出していると…見る見る身体が縮み「わたし」は妖精さんになってしまったのだった。マイクロサイズな妖精ボディと知的作業に不向きな妖精ヘッドでおくる、ハムスターの存亡と知性の衰退と発達とをめぐる一大叙事詩「人間さんの、じゃくにくきょうしょく」
現場に復帰することが決まった「助手さん」を迎えに行った「わたし」は妖精さんからバナナを受け取り、その瞬間から時間と空間、存在を巡る旅に出ることになる。ぐるぐると回る現在の中、「わたし」は助手さんと出会うことができるのか?「妖精さんたちの、じかんかつようじゅつ」


より田中ロミオに、より複雑に、よりSFに、そしてイタチが怖く進化した2巻。
知性を失い意識が混濁していく様子が文章で表現されたり、錯綜する時間軸が構成に現れたりと、実験的で読みにくい部分もあったけど、猛烈に面白かった。むしろやや面白すぎる。濃い。児童小説のタッチを保ちつつ、しっかりSF。さらに「アルジャーノンに花束を」から「ドラえもん」「ガンバの冒険」までさまざまな作品へのオマージュを組み込んだりとネタ満載。
「人間さんの、じゃくにくきょうしょく」
家のなかのぼのぼのとした大冒険から、ハムスター村衰亡史を経て、だんだんと知性が消えうせていくことの恐怖感を煽っていく。そして、また童話的な雰囲気に戻しつつもブラックさを残したラストへ。笑いと恐怖のバランスが星新一ショートショートを思わせました。
妖精さんたちの、じかんかつようじゅつ」
妖精さんたちのお菓子欲からスタートして、さらっと少年時代の「おじいさん」との出会いを書いたり、時間の中を永遠に回り続ける腕時計を出してみたりとこちらも密度が高い。しかも全てのネタが密接につながって、一本のストーリーになっているところがすごい。さらに最後はダジャレで締めるところなんかも完璧。
ところで、3巻が近所の書店数軒を巡っても見つからない、というか入荷した形跡もないんですがどうしたらいいんでしょう? いや、別に他の書店なり通販なりで買うだけですが…。ガガガ文庫の前途に幸多からんことを。