元長柾木『荻浦嬢瑠璃は敗北しない』角川書店

荻浦嬢瑠璃は敗北しない

荻浦嬢瑠璃は敗北しない

飛鳥井全死は間違えない』で、飛鳥井全死の奴隷となった荻浦嬢瑠璃は、主人の命令により中学に復帰することになる。そして、嬢瑠璃は女子中学生の群れの中で、全死に捧げる「勝利者の王国」の構築を模索し始める。


傑作!
前作『飛鳥井全死は間違えない』を大幅に越えるおもしろさ。根本的な構造は前作と同様ながら、荻浦嬢瑠璃のビルトゥングス・ロマンというかたちにまとめたことで、読みやすく理解しやすくなっている。舞台を学校に設定したのも上手い。『飛鳥井全死は間違えない』は、本作のキャラクター紹介にすぎなかったと言ってもいいような気がする。
突然抱きついてくる後輩の女の子がいたり、気弱なおさななじみにつきまとわれたり、巨乳になつかれたりする、美少女ゲーム的な甘ったるい世界観のなかに生きる荻浦嬢瑠璃と、権力ゲームのなかで無視やいじめが起こる鵜堂恵智架の世界。このふたつの世界観の相互侵食を中心として語ることで、物語の重層化、複線化というテーマがよりダイナミックに描かれている。物語がキャラクターの「ものの見方」にあわせて変質していくさまは、なかなかに幻惑的で楽しませてくれる。
そして、なにより嬢瑠璃のキャラクターがいい。奴隷であり、支配されることを求めながら「勝利者の王国」を建国しようとする矛盾。一見知性派なのに、なにかあると突っ込んで殴り合いに持ち込む単純さ、粗暴さもどこか魅力的。

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