4年半ぶりの新刊、そして最終巻 『ダブルブリッド10』

ダブルブリッド〈10〉 (電撃文庫)

ダブルブリッド〈10〉 (電撃文庫)

中村恵里加ダブルブリッド10』電撃文庫
中村恵里加のデヴュー作でもある1巻が発売されたのは1999年のこと。9巻が発売されたのが2003年の年末。それから4年半、ずっと待っていたとは言わない。正直言って忘れていた。より正確に言うと「最近見かけないけど、気が付かないうちに終わっちゃったかな? まあ、そのうち読もう」なんて間の抜けたことを考えていたのだ。おめでたいはなしだ。
既刊を読み返そうにも、とっくの昔に本置き場のカオスに飲み込まれどこにあるやら分からない。仕方がないので、「最終巻発売前に「ダブルブリッド」をおさらいしてみる(シリーズ既読者向)」(ネタバレ注意)で確認した知識だけを頼りに、おそるおそるページをめくる。そこには…

 胃液には、味がある。酸味の利いたその液体が胃から口へと駆け上っていくという体験を、優樹は何度もしてきた。
中村恵里加ダブルブリッド10』電撃文庫 18ページ

まさに4年半前の続きがあった。そして、冒頭から完全に引き込まれた。4年半のブランクなどなかったように。
皮が裂ける痛み、肉がつぶれる痛み、骨が折れる痛み。痛みに満ちた世界。残虐な事件、グロテスクな描写のある作品は数あれど、ここまで「痛み」を突き詰めたものはそうはないだろう。肉体的にも精神的にも極限まで痛めつけられながら、登場人物たちは痛みなどないかのように振舞う。しかし、もちろんそんなわけはない。押し殺された痛みは、読者にも伝染してくる。作者の痛みが登場人物を通じて読者にも伝わる……『ダブルブリッド』はそんな物語だ。聞いたことがないが「身体が痛くなるラノベ」を紹介しろと言われたら、まず『ダブルブリッド』を紹介するだろう。
優樹の痛みを感じながら、自分がいかに『ダブルブリッド』の新刊を待ち望んでいたかをやっと自覚する。長い間待たされた。とんでもなくいいシーンでお預けを食らっていた。待ってなかったなんて嘘だった。ずっと読みたかった。
そして、この10巻は溜まりに溜まったダブルブリッド欲に十分に応えてくれる、あまりにダブルブリッド的な、痛みがぎっしりと詰め込まれた最終巻だった。
既刊を読んでいるならば、ぜひとも読んでいただきたい。設定を忘れた? 大丈夫、身体が覚えてます。たぶん。

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