『stay night』の正統なる前日譚 『Fate/ZERO』


虚淵玄Fate/ZERO』全4巻 TYPE-MOON BOOKS
Fate/stay night』から数えて10年前。冬木の街に魔術師たちが集おうとしていた。サーヴァントと呼ばれる英雄の霊を召喚し、最後の一人となるまで殺しあう戦争――第四次聖杯戦争を戦うために。
平和のため、正義のために冷酷無比な殺人を重ねる「魔術師殺し」衛宮切嗣は、魔術の名門アインツベルンと手を組み、最高のサーヴァント、セイバーを召喚する。冬木の管理者、遠坂時臣もまた、己の必勝を信じつつ参戦する。そしてその影では、言峰綺礼が暗躍を開始する。予め定められた悲劇、その苛烈にして華やかな道行きに震撼せよ!


Fate/stay night』をスキップなしで2周以上、バッドエンドまでコンプした原作ファンの感想なので、だいぶ偏っていると思われます。以下、たいしたネタバレはないと思いますが、長すぎるのでオリタタミング。

虚淵玄奈須きのこ

PCおよびPS2で発売されたゲーム『Fate/stay night』の前日譚にあたる物語。著者は、ゲーム『Phantom -PHANTOM OF INFERNO-』『吸血殲鬼ヴェドゴニア』『沙耶の唄』などのシナリオで知られる虚淵玄虚淵は、現在放映中のアニメ『BLASSREITER』のシリーズ構成を務ており、また『BLACK LAGOON』のノベライズを手がけることが決まっている。
原作者の奈須きのことと虚淵玄は、ともにエロゲをキャリアの基点とし、殺伐とした伝奇モノを得意とする作家ながら、全く異なった個性を持つ。魔法と銃弾、精神と肉体。だから、読み始めるまではゲームとは離れた「虚淵玄の小説」を読むことになるのだろうと思っていた。しかし、『Fate/Zero』はそんな予想をはるかに越えてきた。奈須きのこによる世界観・設定を調べ上げ、『stay night』に直接繋がるように忠実に書かれている。しかし、その感触はもうどうしようもなく虚淵
原作者とは別の筆で描かれながら、徹底的に正統なる『Fate』。そして同時に、虚淵玄にしか書きえない作品だ。

英雄と魔術師

物語には、衛宮切嗣言峰綺礼、セイバーにアーチャーなど、原作ゲームの重要人物のほか、『Fate/ZERO』オリジナルのキャラクターたちも多数登場する。読み終わったとき最も強烈に脳内に残るのは、むしろこちらだろう。自意識ばかりが肥大した若造でしかないウェイバーと、豪放磊落でまさに王の中の王であるライダー。人間として完全に壊れきった雨生龍之介とキャスター。ライダーをもてあましていたウェイバーの成長や、殺人鬼である龍之介による人間賛歌は、本編に繋がるものではないが、切嗣の苦悩に劣らず強い輝きを放っている。
これらのオリジナルキャラクターたちも、『Fate』世界からけっして浮いてはいない。素直に「ゲームの10年前には、こんなやつらが居たんだな!」と思わされる。虚淵玄は、那須の世界観を固有結界のように己のものとして使いこなしているのだ。

『ZERO』と『stay night』

と、ここまでゲーム本編との関係をメインに紹介してきたが、『Fate/ZERO』はそれ単体としても十分に楽しめる内容になっている。聖杯戦争やサーヴァントなどの設定も過不足なく解説されるので、「ゲームをやってないとまるっきりわからん!」なんてことはないはず。むしろ、精緻な世界に驚きながら読み進めることができるかもしれない。それだけにゲームでも後半まで明かされないような重要設定まで描かれている。致命的なネタバレとまでは思わないが、『Fate/stay night』をプレイする予定がある人はご一考を。
しかし、こと『Fate』に関しては、ネタバレなどたいした問題にはならないかもしれない。『stay night』のファンは、『Fate/ZERO』を読みながらゲームの名シーンを想起するだろう。同じように、『ZERO』から入ったファンは、読書の記憶を呼び起こし、小説で得た感動を軸として『stay night』をより深く楽しむことができる、そんな可能性すらある。『ZERO』は、『stay night』のオマケにとどまらない、圧倒的な強度を持った物語だった。


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