読みやすいけどわかりにくい 『アリフレロ―キス・神話・Good by』
アリフレロ キス・神話・Good by (スーパーダッシュ文庫)
- 作者: 中村九郎,むらたたいち
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2007/03/23
- メディア: 文庫
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冬休みも終盤に近づいたある日、三井川正人は「左腕に神話が降ってくる」とつぶやく少女、小桜冬羽に出会った。三井川は、冬羽に不穏なものを感じつつもバイト先のリサイクルショップへと誘う。そう、彼は自分が働いている姿を女性に見られることに興奮を感じる被見願望の持ち主だったのだ。そこに、奇妙な客が現れ、アダルトDVDとコントラバスケースを売っていく。DVDに興味を持ったのが運の尽き、三井川は白いメイド――αキスに狙われることに。神の呪いであるαキスに襲われたそのとき、バスケースから黒園葵こと黒向日葵が現れる。そして、三井川は葵に一目ぼれした瞬間、バラバラにされてしまうのだった。
読みやすいけどわかりにくい。ポップでキャッチーだけど、考え始めると頭が痛くなる不思議な作品。
超個性的な文章に理解しがたい内容……という噂を聞いていたので覚悟して読んだのだけど、そこまで読み辛さは感じなかった。段落が短く切ってあるせいかさくさく読めた。ちょっと身構えすぎだったのかもしれない。
とはいえ、普通のバトルものかというと、それもちょっと違う。やっぱりだいぶおかしい。読みにくくはないけど、ちょっとわかりにくいというか伝わりにくいというか……変だ。
キャラクターも変だし、エピソードもたいがい。冬羽の決め台詞「左腕に神話が降ってくる」には呆然とするしかないし、三井川の「女の子に働いてる姿を見られたい」という性癖カミングアウトにはクラクラした。あと、シャープペンシル……。うん、シャープペンシルは困りますよね。
わかるようなわからないような会話文もけっこう好き。「白くて、丸い!」とか「あ、ごめん。いつ死ぬのかな、って思ってさ」とかは名言だと思う。
ストーリーの大枠は、社会の裏側には闇の組織があって…という感じでわりとよく見かけるタイプのお話。個々のエピソードがどうしようもなく捻りすぎなのにそんなに読みにくくないのは、このテンプレにしたがって進行していくからかも。
いつどこでもマイペースな左腕神話少女・冬羽がけっこうかわいい。これは、イラストの力も大きそうだ。特に口絵の冬羽はいい。ガラス玉のような瞳で非人間性を表現しつつ、ギリギリのところでかわいらしく描かれてる。
毎日は読みたくないけど、たまにならこういうのも楽しい。なんとなく精神的に疲れてるときに読むと理解しやすそうな気がするので、またそういう気分になったら中村九郎作品を探してみようかな。