昨日の30選の補足のようなもの

昨日書いた「好きな少女漫画家は?」って聞かれたら、萩尾望都とか大島弓子とか挙げちゃうやつのオススメする少女漫画30選にグダグダとつけくわえてみた。

なにしろ名作ばかりなのでコメントなんざ邪魔なだけだろうと、タイトルをリストアップするだけにしておいたのだけど、思い入れが強い作品ばかりなので、やっぱりなんかちょっと書いておきたくなった。
今回は文系男子向けというスタンスで選んでおり、エンターテイメント超大作! みたいなのはあえて外している。また、各作家の代表作を紹介、というものではないので「なんでこの作家であえてコレ?」などと思われた方もいるのではないかと思う。そのへんについても、コメントをつけていくことで分かってもらえるとイイナとか愚考する次第でございます。一人の人間が独断で選んだものなので、最終的には「好きだから」というところに落ち着くしかないわけですが。
では、蛇足もいいところだと思いつつも紹介文っぽい何かを書いていきます。


萩尾望都『メッシュ』
 パリという都市に翻弄される少年の物語。家族間の不和など重いテーマも扱っているのに、筆致は明るく軽やかでエンターティメントとしても極上。

山岸涼子テレプシコーラ
 山岸涼子の最新作で、現在も第二部が続刊中。『アラベスク』や『日出処の天子』など70〜80年代の作品が有名だけど、『黒鳥』『ツタンカーメン』などなど最近のものも力に満ち溢れている。バレエ漫画ながら、児童虐待にいじめとテーマは重くて重くて重い。

大島弓子『つるばらつるばら』
 「すこしフシギ」な物語に過剰なまでの情感をこめたゆーみん流SF作品。代表作は『バナナブレッドのプディング』あたりになるのだろうけど、『ダリアの帯』『ロングロングケーキ』など80年代中盤以降の作品のほうが、その魅力を理解しやすいと思う。最新作な猫エッセイ漫画『グーグーだって猫である』も是非。

竹宮惠子『スパニッシュ・ハーレム』
 いきなり『風と木の詩』ではちょっとハードかな? とかいろいろ考えた結果、ロンドンの下町を舞台にゲイの痴話げんかが繰り広げられるこの作品に。作風の幅が広い作家なので、SFな方は『地球へ…』、ファンタジーなら『イズァローン伝説』なども。

木原敏江『夢の碑』
 世界各国の歴史モノを中心としたオムニバス形式の大長編。エピソードごとに完結しているのでどこから読んでも大丈夫。やおいな人は『摩利と新吾』も。

岩館真理子『キララのキ』
 岩館真理子のなかでも、最も幻想的で美しい作品だと思う。よりリラックスしたラブストーリーの『うちのママが言うことには』や『子供はなんでも知っている』なども。

青池保子『アルカサル-王城-』
 中世スペインを舞台とした歴史モノで、84年にスタートし2007年に完結したという大作。だけど、巻数は全13巻なので、しり込みするほどの長さではないかな? よりコンパクトな作品では、『エロイカより愛をこめて』の外伝にあたる『Z - ツェット -』が好き。

清原なつの『金色のシルバーバック』
(文庫版『千の王国百の城』にだいたい収録)
 清原なつのの作品は、ちょっと前まで手に入れにくかったのだけど、2000年ぐらいにハヤカワ文庫から一気に復刊された。やわらかい絵柄で毒を効かせたストーリーを描く中短編の名手。「金色のシルバーバック」と「銀色のクリメーヌ」は、同じテーマをもとに幸福な物語と悲劇を描き分けたもの。その落差に震える。

一条ゆかり正しい恋愛のススメ
 現在も精力的に作品を発表し続ける大ベテランの90年代末期の一作。「高校生ホスト」を題材にしたラブストーリー。絵柄的に、『恋のめまい愛の傷』から『正しい恋愛のススメ』あたりが一番男子がかわいかっこよく描かれていて好き……とか言ったら引かれるだろうか? いや、引かれてもいいか。『デザイナー』『砂の城』それに『有閑倶楽部』などの古典的傑作群も是非。

吉田秋生『カリフォルニア物語』
 カリフォルニアの青い空に憧れるニューヨークの若者たちと、カリフォルニアから逃げ出してきた少年のお話。タイトルに反してカリフォルニアがほとんど出てこないのに驚いた……ってそんなことはどうでもいいか。どろ臭い青春モノの『河よりも長くゆるやかに』、アクション要素が強い『BANANA FISH』、緻密な構成で恋愛を描いた『ラヴァーズ・キス』などなど、芸風が広くそれぞれに多数のファンがいる。

三原順はみだしっ子
 人間の悪意や生きることの難しさを描き続けた三原順の代表作。罪の意識から逃れることができず、袋小路へと陥ってしまうグレアムには感情移入しまくりだった。絶筆の『ビリーの森ジョディの樹』なども。

くらもちふさこ『いつもポケットにショパン
 『天然コケッコー』『α』など最近の実験的な作品も圧倒的なおもしろさを持っているのだけど、なんとなくこれを選んでいた。音楽モノとしても恋愛モノとしても、ものすごく濃厚な一作。

・水樹和佳『イティハーサ
 古代日本で繰り広げられる善神と悪神の争い。異常なまでに美しく描き込まれた絵と、宗教的なまでに情念が込められたストーリー展開が圧巻。『樹魔・伝説』、『セレス還元』などのSF作品も。

吉野朔実『ジュリエットの卵』
 端正な描線と理知的な作風。正直に言うと、ちょっと難解すぎるんじゃないかと思ってしまう部分もあるのだけど、だんだんと精神のバランスを崩していくヒロインの描写などは怖いぐらいに美しい。

神坂智子『T・E・ロレンス』
 第一次世界大戦で活躍したイギリスの軍人、「アラビアのロレンス」ことトーマス・エドワード・ロレンスを主人公にアラビアの独立を描いた歴史モノ。私はこれでアラビアを好きになりました。オムニバス長編の「シルクロード・シリーズ」も是非。

吉村明美麒麟館グラフィティー
 個性的な人物たちの織り成す、葛藤に満ちた恋愛ドラマ。恋愛やセックスの汚いところ恐ろしいところを掘り下げた作品なのに、なぜか読後感は爽快。

獸木野生伸たまき)「PALMシリーズ」
 アメリカを舞台にした大河ロマン。カート・ヴォネガットの小説を思わせるハードで皮肉に満ちた世界観が魅力的。現在までに31巻が刊行され、なお続刊中の大長編なので、手早く読んでみたい方には『青また青』などをオススメしたい。

川原泉笑う大天使
 笑いのなかに涙なしでは読めない展開を混ぜてくるのが川原泉の真骨頂。ラストの「夢だっていいじゃない」などは何度読み返したかわからない。

佐藤史生『ワン・ゼロ』
 サイバーパンクと東洋の神話を融合させたSF作品。重厚で緊張感に満ちたストーリーに引き込まれる。続編として『打天楽』が出ている。

高野文子『黄色い本』
 漫画を通じて読書の楽しさや高揚感を味あわせてくれる不思議な作品。高野文子は、作品にあわせてガラッと絵柄を変えてくるのだけど、今回はレトロな昭和調になっていて、はじめて本を読むことを覚えた子供の頃を思い出させる。

森川久美イスタンブル物語』
 ケマル・パシャによるトルコ革命を題材にした歴史モノ。独立革命の高揚感と、その裏で翻弄される個人の悲哀の両面を描き出した。日中戦争第二次世界大戦までの日本を描いた『蘇州夜曲』『南京路に花吹雪』『Shang‐hai l945』も絶品。

秋里和国TOMOI
 『眠れる森の美男』の続編……なのだが、ギャグものだった前作とは異なり全篇シリアスで重苦しい雰囲気が立ち込めている。ゲイに目覚めた医師の絶望と再生、生と死を描いた鮮烈な作品。ラストのコマは、スクリーントーンをはっただけの空が、青く、青く見えてしまう。

岡崎京子ヘルター・スケルター
 ハードでグロテスクなイメージを押し出した岡崎京子後期の長編。後期の短編にはまだコミックス未収録の作品も残っており、読んでないものもありそうなのでなんとかして欲しいところ。80年代テイスト全開の『くちびるから散弾銃』なども、今読むとまた違った楽しさがある。

多田由美多田由美短編集』
 どこかの外国でダメな男たちが破滅していく短編ばかり詰め込んだ作品集。正直、どれを選んでいいのか分からなかったので、過去の作品がだいたい収録されたコレを挙げてみた。一番有名なのは「内気なジョニー」かな?

榛野なな恵Papa told me
 一見、父と娘のかわいらしく、ほほえましいお話なんだけど、読後には強烈な違和感が残る。無菌室のような清潔で平穏な世界には、癒しと同時に恐怖を感じる。

樹なつみ『OZ』
 核戦争により荒廃した地球を舞台としたSF。スピーディで緻密な展開で、ラストまで圧倒されっぱなしだった。1024とネイトのあのシーンが忘れられない、と読んだ人しか分からないことを書いておく。

耕野裕子『CLEAR-クリア-』
 しゃれた絵柄で、人間の弱いところをこれでもかとえぐり出していく。主人公の嫌な部分は自分にも重なるところが多く、読んだあとしばらく自己嫌悪に苦しんだ。

・坂井久仁江『花盛りの庭』
 一族四代にわたる歪みきった愛のクロニクル。『花盛りの庭』『架空の園』『約束の家』と続いていきます。

あとり硅子『これらすべて不確かなもの』
 優しく、繊細で、どこか哀しい短編を集めた作品集。あとり硅子が亡くなったことを知ったのはわりと最近のことで、「しばらく新作を見ないなー」などと思っていた。それだけに、かなりショックだった。

よしながふみ『大奥』
 男子にのみ感染する奇病により、男女の関係が逆転した架空の江戸時代を描くSF歴史モノ。TVドラマの「大奥」と関係あるんだと思い込んでいて、読み始めて驚いた……そんなことどうでもいいですね。江戸情緒を漂わせつつ、男が男であるとはどういうことなのか? 女が女であるとはどういうことなのか? と問いかけてくるものすごい作品。