MMO時代のダークファンタジー『シフトI』

うえお久光『シフトI』電撃文庫

眠りにつくと同時に、もうひとつの世界に〈シフト〉する。そこは、まるでゲームのような剣と魔法の世界。戦士たちは「スキル」を封じ込めたカードで戦い、魔法使いは発放紋から火や氷を撃ちだす。いまだ国家も法もない世界で繰り広げられるちょっと殺伐としたファンタジー

ハードカバー単行本からの文庫化という電撃では珍しい経路をたどって発売された作品。
MMORPGだとかネットゲーム廃人だとか、そんな単語が思い浮かんでくる小説だった。しょせんゲームだからってことで善悪のタガが外れてしまうやつがいたり、現実世界での顔や名前を知られるとやっかいだったりと、いやーな部分がやたらとリアルで、こういうのが現代のダークファンタジーなのかもしれない。怖さというかダークさの質が、こう、怪物が襲い掛かってくるとかそういう直接的なものではなくて、ネットストーカーやらいじめやらといったものを思い起こさせる。作中には、ネットやMMOなどの用語は出てこないけれど。
また、ゲーム系ファンタジーとしてもかなり熱い。派手なスキルや魔法に、騙しあい的なかけひきを織り交ぜたバトルシーンは文句なくかっこいいし、人々から忌み嫌われる「怪物系」のリザードマンである主人公もいい味をだしてる。
あと、うえお久光節といっていいのだろうか? 個々のエピソードがこれでもかと濃密かつページ数的にも長く描写されていて、『悪魔のミカタ』を思い出した。良くも悪くも、語って語って語りまくるのがこの作家の個性なんだろうなあ。

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